受け入れること

5月のある日のこと。いつもだったら迷いなくスパッスパっといろいろ決めてきたはずなのに、
今回はなかなかあることを「するか」「しないか」を決めかねていて、かといって、いついつまでに決めないといけない、という期限も迫っていて…….という時の、主治医(男性)との会話。

先生「で、まだ決められないって?」
私「はい…….あ、これ触らせてもらってもいいですか?」
先生「どうぞ」
私「あー、思ったよりやわらかい。軽いし。(モミモミしながら)」
先生「そうね」
私「どう?こんな感じ。(旦那に触らせる)」
旦那「イイネ」
私「ね、悪くないね、思ったより。で、こんな感じ。(旦那の胸にそれを押しつけながらまたモミモミ)」
旦那「ア、イイネ」
私「変態だね」
旦那「ソウダネ」
先生「(笑)ああそういえば、僕の先輩である医師から聞いた話ですけど。もう恋愛とか女性とのお付き合いとか今後はないだろうとあきらめた男性が、自分の両胸にシリコンを入れることを希望したそうです。」
私「えー!それで、どうしたんですか。」
先生「僕は見てないですけど、先輩に聞いたら”手術したよ”だそうです(笑)」
私「自分で楽しむためにですか…..。(話を聞きながら自分の右胸を片手でモミモミ、もう片方の手でシリコンをモミモミ)」
先生「そうですね」
私「変態ですね!(まだモミモミ)」
先生「変態ですねえ(笑)」
私「いろんな人がいますよね」
先生「そうですね(笑)」
私「(旦那に)今のわかった?」
旦那「ヨクワカンナカッタ」
私「(英語で:恋愛をあきらめた男性が自分用に入れたんだって!)変態だねー!」
旦那「ワー!ヘンタイ!」(←変態の意味は知っている)
私「あなたも入れてみる?」
旦那「イイネ」
先生「(笑)」

そんなくだらない話だったのですが。
でもこれが重要で。
場がなごみ、最初は頼りなさそうな印象だった先生が(すみません)
ユーモアのある、笑顔を見せてくれる人間味のある先生だということもわかり、
(さらに手術後は、信頼できる手先の器用なすごい先生だということがわかった!)
こんなことを話せて笑い合える先生なら
その迷ってた「あること」を「やる」と決断して、先生に託してみようかな、
というふうに心が動きました。

その診察後。
私「先生、おもしろかったね。」
旦那「ウン、オモシロカッタ。ヘンタイセンセイ。」
私「あははは、でも変態なのは先生の先輩の患者さんだからね。」
旦那「ウン、デモ、ヘンタイセンセイ。」
私「まあね。乳首たくさん持ってたからね。」
旦那「ダヨネ!」

先生がデスクの引き出しを開けた時に、
人口乳首のサンプルがたくさん入っていたのを
わたしも旦那も見つけていたから(先生の商売道具だからしょうがないのだ)
それ以降、わたしたちの間ではその先生を
変態先生とニックネームで呼ぶようになりました。
違う違う、変態なのは、先生の先輩の患者さん!

何かを決めることは、時には悩んでも悩んでも考え過ぎてもだめで、
ふとした何気ないきっかけで、心が動くこともあるんだ。

そんな経緯があり、乳房同時再建という乳房のふくらみを
シリコンで取り戻す方法を試してみることに決めました。

同時再建とは、がん摘出手術中に、同時にティッシュ・エキスパンダーという装置を
皮下ではなく大胸筋の下に入れるもの。(皮膚は薄くて弱いため)
摘出は乳腺外科の主治医が行い(ニックネームは英語で”おっぱい”のブーブ先生)
途中で形成外科の主治医(変態先生)にバトンタッチして、
エキスパンダーが挿入されます。(結果、トータルの手術時間が3時間となりました)
その後、定期的に生理食塩水をエキスパンダーに注水して皮膚と大胸筋を伸ばし、
数ヶ月後にエキスパンダーをシリコンに入れ替えるインプラント手術を行います。
最初の手術時に切った場所と同じところを切開するので、傷はひとつで済みます。
(詳しくはこちら >>『乳がんinfoなび』外部サイトにジャンプします)

当初、がんということを受け入れ、片胸がなくなるということも受け入れた、
すなわちヨガ的に「手放すこと」を「受け入れた」のに、
同時再建という選択肢を主治医から提示され、
すなわち「つくる」という新たな選択肢を与えられ、
「異物を体に入れるイコール自然ではない状態になる」という違和感があり、
「するか」「しないか」を悩みました。

でも様々なメリットとデメリットも考慮しながら、家族の意見も聞きながら、
「つくりたくても、体調や状況によってはつくれない人もいる。
そんな中で、この再建というオプションを提示してもらえたということは、
このチャンスを”受け入れること”もヨガなのかもしれない」
と考えるようになり、そして、形成の変態先生との前段の会話。
この会話を持てたことで、はっきりと「やってみよう。先生に委ねてみよう。」
と決めることができました。

いま、わたしの胸にはエキスパンダーが入っていますが、
思っていたより違和感を感じず、いまのところ経過は順調です。
異物としてではなく、わたしの新しい一部(New normal)として受け入れる
ことができたから、なじんでくれています。
知らない人が見たら、まったく気付かないかもしれません。

受け入れること。ヨガの実践がどんなことでも活きています。